インフォメーション

【保守運用コストのリアル】「何も起きていないのに毎月お金を払うの?」と疑問に思う発注者が知るべき、システムが腐るメカニズム

作成者: 正木 拓馬|May 11, 2026 6:06:42 AM

システム開発において、無事にリリースを迎えた後に必ず直面するのが「保守運用」の問題です。

「システムは完成したのだから、不具合が出た時だけお金を払えばいいのでは?」
「毎月何も起きていないのに、固定費を払い続けるのはもったいない」

多くの経営層やDX推進担当者が抱くこの疑問。しかし、この「保守不要論」こそが、数年後のシステム崩壊や大規模な情報漏洩を引き起こす大きな要因となります。

ソフトウェアは建てて終わりの「家」ではなく、手入れし続けないと雑草だらけになってしまう「庭」です。今回は、現役エンジニアの視点から、見えない保守運用の裏側と、「何もしなくてもシステムが壊れるメカニズム」を解説します。

 

 

Q1. 「毎月何もトラブルが起きていないのに、保守費用を払い続けるのはもったいないと感じてしまいます。エンジニアの皆さんは裏側でどのような作業をしているのでしょうか?」

【エンジニアの回答】
システム運用における「監視」とは、システムの心拍数を確認する「死活監視」や、サーバーの負荷状態を測る「リソース監視」を通じ、異常の予兆を捉える24時間の警備活動です。一方「メンテナンス」とは、古くなったOSやライブラリの更新(セキュリティ脆弱性対応)、リリース時に後回しにされた「技術的負債」の返済、発生頻度が低く放置されていたバグの根絶など、システムが「将来的に動かなくなるリスク」を事前に摘み取る作業を指します。

固定の保守費用は、これら「見えない防波堤」を築き続けるための投資であり、「ビジネスの足を絶対に止めないための保険」です。ユーザーから見て「毎月何も起きていない」というのは、決してエンジニアがサボっているわけではなく、未来のトラブルを先回りして解決し続けているという成果の証です。

 

Q2. 「一度完成したシステムは、自分たちで設定やコードを変更しない限り壊れないと思っていました。なぜ勝手に不具合が起きるようになるのでしょうか?」

【エンジニアの回答】
これは経済における「インフレ現象」に近いかもしれません。あなたが銀行に100万円を預けたまま10年放置したとしましょう。金額(=自社のソースコード)は全く変わっていなくても、世の中の物価(=技術環境)が上がれば、かつて買えたものが買えなくなり、生活(=システム)は破綻します。ソフトウェアの世界でも、全く同じことが起きています。

実際のシステムでは何が起きているのか、3つの変化で説明します。

  • インフラの変化(OS・ブラウザの更新): かつては通用したコード(通貨)が、新しい環境では非推奨(偽札)扱いされ、動作しなくなります。

  • ルールの変化(外部APIの変更): 昨日まで「1ドル100円」で通信してくれた外部システムが、相手の都合で突然「1ドル200円」の仕様になったり、「窓口閉鎖」になったりします。

  • セキュリティの陳腐化: 自社の鍵(暗号化方式)は変えていなくても、泥棒(攻撃者)のツールが進化すれば、その鍵は実質的に「開いたままの扉」と同じになります。

インフレに対抗するために日々の資産運用が必要なように、運用保守とは、常に変わり続ける外の世界の基準に合わせてシステムを調整し続ける、極めて価値の高い作業なのです。

 

Q3. 「開発コストを抑えるためにオープンソース(OSS)を使ってもらいましたが、その後の脆弱性対応(パッチ適用)を後回しにすると、どのような危険がありますか?」

【エンジニアの回答】
オープンソースソフトウェア(OSS)は、高品質な機能を低コストかつ短期間で導入できる現代システム開発の最強の武器です。世界中の知見が集約されているため、特定のベンダーにロックインされず、透明性の高い拡張が可能です。

しかし、その圧倒的なメリットの裏側には「発見された脆弱性が全世界に公開される」という宿命があります。攻撃者は、インターネット上に公開された「脆弱性の攻略本」を手に、修正パッチを当てていない無防備なシステムを自動スキャンで執拗に探し出します。
パッチ適用を後回しにして放置すれば、ランサムウェアに感染して顧客データを人質に身代金を要求されるだけでなく、自社のサーバーが他社を攻撃するための「踏み台」として悪用され、被害者が一転して加害者となり巨額の賠償責任を負うリスクすらあります。

OSSの恩恵を安全に享受し続けるには、日々のメンテナンスという「防衛コスト」を惜しまないことが絶対条件です。

 

Q4. 「AWSなどのクラウドを使っていても、インフラの保守対応が必要になるのはどのような場面ですか?」

【エンジニアの回答】
「クラウドに置いておけばインフラ保守は不要」というのは大きな誤解です。AWSやGCPといったパブリッククラウドベンダーが自動で面倒を見てくれるのは、基本的には影響の少ない軽微な更新(マイナーアップデート)のみです。

データベース(RDS等)のメジャーバージョンアップや、古いランタイムのサポート終了(EOL:End of Life)の時期が到来した場合、利用者は必ず対応を迫られます。もしエンジニアがこれを無視して放置すると、期日が来た瞬間にシステムが突如停止したり、クラウド側からの強制再起動によって長時間のダウンタイムが発生します。

さらに恐ろしいのは、新しいバージョンと自社の古いソースコードの間に互換性がない場合、システムが完全に動かなくなり、最悪の場合は修復不能なデータ破損のリスクすら生じます。クラウドを利用していても、定期的な互換性検証とアップデート作業は不可欠です。

Q5. 「コスト削減のために保守契約を結ばず、万が一サーバーが落ちた時だけ、スポット(単発)でエンジニアに依頼しようと思うのですが、難しいでしょうか?」

 【エンジニアの回答】
その選択は、結果的に最も高くつくギャンブルになります。

システムメンテナンスの本質は、単にエラーを直す「修理作業」ではなく、「万が一の際に、最短で直せる状態(コードの健全性、ドキュメント、そしてエンジニアの体制と知見)を維持すること」にあります。

現代の複雑に絡み合ったシステムにおいて、普段そのシステムを触っていないエンジニアが、緊急事態にスポットで呼ばれても、構成を理解し、原因を特定し、安全に改修を行うには莫大な時間と調査コストがかかります。その間、ビジネスは完全にストップしてしまいます。

平時から継続的にシステムと関わり、変化を把握しているエンジニアがいるからこそ、有事の際に瞬時に動けるのです。「平時の保守費用」をケチることは、有事の際の復旧コストを青天井にし、事業の存続すら危ぶまれる事態を招く非常に危険な判断と言えます。

 

まとめ:保守運用は「コスト」ではなく「資産運用」である

システムはリリースされた瞬間から「劣化(陳腐化)」が始まります。
ビジネスを止めないためには、コードを書き続けることと同じくらい、システムを守り続ける活動が重要です。

  • 外部環境の変化(インフレ)に合わせたシステムの調整

  • OSSの脆弱性に対する防衛

  • クラウドの強制アップデートへの追従

  • 有事に最短で復旧できる体制の維持

れらを「無駄なコスト」と捉えるか、自社のデジタル資産を守り育てるための「資産運用」と捉えるかで、数年後のシステムの寿命とビジネスの安定性は大きく変わります。

システム開発を発注する際は、初期開発費だけでなく、保守運用の体制・費用・対応範囲についても、しっかりとベンダーと確認するとよいでしょう。

 【deeptierのシステム受託開発】現状の課題やビジネスゴールについて、壁打ちベースからご相談を承ります。 


【本記事の監修者】

正木 拓馬
株式会社deeptier エンジニアリーダー

海外大学にてソフトウェア工学を専攻し、欧州企業にてWebアプリケーション開発に従事。多国籍チームでの開発経験を通じ、グローバル環境における実践的な知見を有する。
人材紹介会社では、社内ユーザー数100万人規模の基幹システムにおいて、フロントエンドからバックエンド、バッチ処理までを横断した設計・開発を担当。拡張性・保守性を重視したアーキテクチャ設計および開発プロセス改善を推進。
現職では、Webアプリケーション開発基盤の設計・標準化を主導するとともに、AIを活用したコード生成パイプラインおよび品質管理プロセスの設計・導入に従事。実務に根ざした開発基盤設計およびプロセス改善を専門とする。


※この記事の技術情報について
本記事は2026年4月時点の一般的な開発情報に基づいて執筆されています。技術トレンドの変化により、推奨されるツールや手法は変わる可能性があります。