【開発コミュニケーションのリアル】「なんか動きません」がプロジェクトを遅延させる理由。発注者とエンジニアが最速で動くための作法5選

2026.05.11

システム開発において、発注者(ビジネス側)と開発現場(エンジニア側)の間に横たわる「言葉の壁」。


良かれと思ったチャットの投げかけや指示が、実はエンジニアの集中力を削ぎ、バグの特定を遅らせ、結果的にプロジェクト全体を遅延させているケースは少なくありません。

12

 今回は、現場のエンジニアの視点から、システムが「早く・安く・高品質」に仕上がるための「上手な発注者の作法」を解説します。エンジニアの脳内構造を知ることで、開発チームの生産性は劇的に向上します。

 


 

Q1. 「エラーを見つけたので『画面が動きません』と急いで報告したのですが、エンジニアから『詳細を教えてください』と返ってきて時間がかかってしまいます。スムーズに調査を進めてもらうにはどう伝えるべきですか?」

【エンジニアの回答】
バグがあると言われた瞬間、エンジニアの脳内では「どういう要因のバグだろうか」とフル回転し、複数の可能性を模索します。エンジニアは普段、新機能の実装や別のバグ解析など、複雑なタスクで頭を切り替えながら作業しているため、まずは脳内の情報をクリアに切り替えてあげる配慮が不可欠です。


具体的には、不具合には大きく分けて4つの種類があります。誰がやっても起きる「コード起因」、特定のデータの時だけ狂う「データ起因」、特定の端末やネットワークで起きる「環境起因」、そして10回に1回などタイミングに左右される最も厄介な「特定条件起因」です。


これらを正確に特定し、最短ルートで問題解決へ向かうためには、単に「動かない」という事実だけでなく、「具体的な再現手順(あるいは再現しない手順)」「バグと判断した根拠」「期待していた本来の動作」、そして言葉よりも圧倒的に情報量の多い「動画やスクリーンショット」をセットで提供するとよいでしょう。

 

Q2. 「業務効率化のために『ここにCSVダウンロードボタンを追加してほしい』と具体的な指示を出したのですが、エンジニアから『何のために使う機能ですか?』と逆に質問されてしまいます。なぜ背景まで聞かれるのでしょうか?」

【エンジニアの回答】
解決策だけを提示されるよりも、その背景にある課題を言語化していただく方が、結果的に安価で安全な代替案をご提案できるからです。

ここで強力な手法となるのが「ユーザストーリー」です。単なる指示書ではなく、「[誰]が、[どんな価値]のために、[何]をしたいのか」という物語の形式で伝えることで、開発チームは実装の「真の意図」を自分事として深く理解します。また、発注者と開発者の間にプロダクトオーナーを配置し、「なぜこれが必要か」という文脈(コンテキスト)をチームに浸透させることも有効です。

生成AIが瞬時にコードを書ける現代において、人間が担うべき最も重要な役割は「正しい問い(目的)」を立てることです。目的さえ共有できれば、エンジニアは最新技術を駆使し、発注者自身も気づかなかった「未来のスタンダード」となる解決策をプロの視点から逆提案できるようになります。

 

Q3. 「リモートワークなので、チャットで『お疲れ様です。今お時間よろしいでしょうか?』と丁寧なコミュニケーションを心がけているのですが、エンジニアからの返信が遅いことがよくあります。開発中の連絡はどう送るのが正解ですか?」

【エンジニアの回答】
リモートワーク時代のコミュニケーションは遠慮せず活発に行うべきですが、同時にプログラミング中のエンジニアの「深い集中(フロー状態)」を守る工夫が、チーム相互の生産性を最大化します。挨拶だけで相手の反応を待つチャットや、五月雨式に情報を小出しにする行為は、このフロー状態を著しく削いでしまいます。

エンジニアが「即レス」したくなる理想的なチャットとは、1通のメッセージで「背景・課題・期待値」が完結している(自己完結型)メッセージです。情報の非対称性が解消されていれば、エンジニアは作業の合間にパッと判断し、迷いなく最短で動くことができます。お互いの時間を尊重し合う「質の高い情報の投げ合い」が自律的なチームを作ります。

一方で、テキストで長々とラリーが続くようであれば、遠慮なく「今、1分だけ会話いいですか?」と声をかけ合える関係性も重要です。場合によっては、テキストよりも会話が勝る瞬間も大いにあります。

10

 

Q4. 「現場としてはどの機能も早く直してほしいので、ついすべての依頼に『急ぎ』や『なる早』と付けて優先度を高く設定してしまいます。こうした依頼の仕方は、開発進行にどんな影響を与えますか?」

【エンジニアの回答】
すべての依頼に「至急」のラベルを貼られると、開発チームのタスク管理は機能不全に陥ります。

多くのバグ管理システム(JIRAやGitHub Issues等)では、課題ごとに3〜5段階の優先度を設定するのが一般的であり、その優先度は基本的に「緊急性」と「重要性」の2軸、さらに技術的な実現性を含めて決定されます。例えば、アジャイル開発(スクラムメソッド)の原則では、開発期間中(スプリント)の横入りは「避けるべき悪手」とされています。

とはいえ、実際のビジネスの現場では、割り込みを完全にゼロにすることが常に正解とは限りません。重要なのは、発注者が一方的にラベルを貼るのではなく、デイリースクラム(毎日の朝会)などの対話の場を有効に利用し、「ビジネスの損害と開発リソースを天秤にかけ、今何に注力すべきか」をチーム全体で話し合い、納得感を持って進めることです。


Q5. 「技術的なことはエンジニアに任せきりになりがちですが、発注者としてエンジニアのパフォーマンスを引き出すコツはありますか?」

 【エンジニアの回答】
技術への理解の深さ以上に、エンジニアの心を強く動かすのは「プロダクトへの敬意」と「共に課題へ立ち向かう姿勢」です。

例えば、ソフトウェアの不具合は、単なるエンジニアの不注意というよりも、複雑な仕様の絡み合いから生まれる「構造的な宿命」とも言えます。バグを生むのも人間ですが、それを紐解き、直せる唯一の存在もまたエンジニアです。

バグが発生した際、犯人探しや糾弾に終始するのではなく、解決に挑むエンジニアを唯一無二のパートナーとして尊重し、技術が分からずとも「理解しようと努めているか」を示すことが重要です。品質問題という苦境においてこそ、発注者がプロダクトへの愛を持ち、建設的な対話を諦めない姿勢を示すことで、エンジニアは「この人のために、このプロダクトを最高のものにしたい」という強い使命感を抱き、高いパフォーマンスを発揮できます。

 


まとめ:発注者とエンジニアは「対立構造」ではない

システム開発は「仕様書を発注し、納品物を待つ」という一方通行の取引ではありません。

  • エラー時は推測ではなく「事実と手順」を伝える

  • 解決策(How)ではなく、課題(Why)を共有する

  • 技術が分からなくても、プロダクトへの関心と建設的な姿勢を示す

こうしたビジネス側の歩み寄りが、エンジニアの自律的な提案を引き出し、結果的にコストパフォーマンスの最も高いシステム開発を実現します。


ぜひ、次のプロジェクトからこれらの内容を参考にしてみてください。


 【deeptierのシステム受託開発】現状の課題やビジネスゴールについて、壁打ちベースからご相談を承ります。 



【本記事の監修者】

浅野 貴史
株式会社deeptier 技術フェロー

組込みソフトウェア開発からキャリアをスタート。その後、クラウド技術への深化を図り、数千万DL規模のサービス基盤構築やWebサービス開発を主導し、事業成長に貢献するなど、大規模サービス基盤を中心に低レイヤーからクラウドまで横断する技術知見を強みとする。
日本、米国、ドイツの3ヶ国での常駐・開発経験を経て、複数の企業でCTOを歴任。近年は生成AI領域のスペシャリストとして、新規事業開発や企業のDX推進を牽引している。2024年 当社設立時より技術フェロー(非常勤)。



※この記事の技術情報について
本記事は2026年4月時点の一般的な開発情報に基づいて執筆されています。技術トレンドの変化により、推奨されるツールや手法は変わる可能性があります。