AI時代に問われる、エンジニアの真価――deeptierが考える、AI時代のエンジニア像

2026.06.01

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 deeptierエンジニアチームの中心メンバーである本田と正木へのインタビュー連載、第3回目のテーマは「AI時代のエンジニア像」です。

生成AIの登場で誰もが開発ができる時代になる。プロンプトさえ打てば、エンジニアでなくてもシステムが作れるという言説が広がっています。

しかし、生成AIを見たときに、本田が最初に抱いた印象は、違うものでした。

「相対的に『エンジニア』のレベルが下がるな、と思いました」

AI時代に実装経験はなぜ必要なのか。若手エンジニアはどうあるべきか。そして、企業はこの変化にどう向き合うのか——本田と正木の言葉から、AI時代のエンジニア像を探ります。

速くなるほど、問われるものがある

「作るだけなら、AIの方が圧倒的に速い。体感としては、数十倍、場合によっては数百倍速いです」と本田は言います。

設計書やルールが整っていれば、AIはルールに従いながらコードを生成します。以前なら数週間かかっていた画面実装が、数日で完了します。

ただし、速く出てきたものが正しいとは限りません。生成AIは大規模言語モデルの統計的な推論によってコードを出力します。指示に対して「それらしいもの」を返してくれますが、指示の解釈が微妙にずれると、本来求めていたものとは異なる方向に進むこともあります。確認せずにそのまま使えば、動いているように見えて要件を満たしていない、ということが起きるのです。

その事実に対して、本田は危機感を抱いています。

「AIが作るものを見て、どこがどうおかしいのかを指摘するためには、実装を深く知っていないといけない。一方で、AIの浸透で実装する機会が減り、知らないことが増える。だいぶ厳しい時代になると思いますよ」(本田)

道具が速くなると、使う側の判断力が問われます。速さに乗っかるだけでは、「『エンジニア』のレベルが下がる」——本田が最初に感じたのは、それに対する強い危機感です。

 

実装経験は、なぜまだ必要なのか

実装の機会が減っていく中で、なぜ実装経験が必要なのか。エンジニア経験のない方には直感的にわかりにくいかもしれません。

本田はこう説明します。

「実装経験がないと、設計書を見て影響範囲がどこなのかを瞬時に判断できないんです。お客さんの要件が変わりました。では、今作っているものの中でどこが影響を受けるか——それを見極めて、どの設計書を直して、どこを再実装させるかを判断するのは人間がやらないといけない。その判断は、実装経験を積まないと身につかないんです」(本田)

機能Aを変えたら、まったく別の機能Bまで影響が出た——こういうことは、システム開発の現場ではよく起きます。なぜそうなるのか、どう対処すべきかを即座に判断できるのは、自分でコードを書いてきた経験がある人間だけです。

「知らんけどやれた、ではなくて、なぜそうなるかを説明できないと任せられない。そのためにも一定の実装経験は必要だと思います」(本田)

 

それでも、若手に武器はある

では、実装経験がまだ十分でない若手エンジニアは、どうすればいいのでしょうか。

正木はエンジニアとしての経験年数は4年ほど。本田のようなベテランエンジニアとは、大きな経験の差があります。それでも本田は、正木を「ずば抜けて優秀」と評します。それは、なぜでしょう。

「僕が考えた設計やプロセスを正木さんに説明すると、事細かに質問が来るんですよ。なんでこうするんですか、この方がいいんじゃないですかって、自分の意見をぶつけてくる。それで僕自身も気づかなかった観点が出てくることもある。問題にぶち当たった時も、解決手段じゃなくて、そもそも問題へのアプローチが間違ってるんじゃないかって疑える。そういうところを高く評価しています」(本田)

本田が正木を評価するのは、実装経験の量ではなく、問いの鋭さです。

「同じように、AIが出してきたものに対して、これでいいんですか、なんでこうなってるんですかって問える人間かどうか。それは経験年数とは別の話で、浅い段階でも身につけられるし、逆に何年やっても身につかない人はずっとそのままなんですよ」(本田)

エンジニアにとって、この差はますます大きくなっています。AIが浸透すればするほど、「作れる人」の価値は相対的に下がり、「問える人」の価値が上がるからです。

 

「全体を見る視点」は、どこで生まれるか

問いの鋭さは、全体を見る視点があるからこそ生まれます。その視点はどこで身につくのでしょうか。

正木は、伸び悩む若手エンジニアについてこんな印象をもっています。

「会社に入って、上司の指示に従ってここを修正しましたよ、みたいな仕事ばかりしていると、全体的なものを見る考え方が身につかないのではないでしょうか。そういうエンジニアは一部分だけを見ていて、なぜそこにその機能があるのかを考えない」(正木)

では、正木自身はどうやってその視点を身につけたのでしょうか。

「海外の大学でソフトウェアエンジニアリングを専攻して、在学中に個人的に一からシステムを作った経験があって。そこで初めて、全体を見る考え方が身についたのかなと思います」(正木)

専門的な教育で設計の構造を学び、実際に一から作ることで全体のつながりを体感する。その両方が揃って初めて、全体を見る視点が育ったのです。

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海外と日本では、エンジニアになるための入口が大きく異なります。

「海外の企業だと、ソフトウェアエンジニアリングを専攻していないとそもそもエンジニアとして採用されないのが一般的です。一方、日本ではスクールに4ヶ月通えばエンジニアになれる、ということが普通にある。そういうところはカルチャーとして全然違います」(正木)

どちらが良い・悪いという話ではありません。しかし、AIが実装を担う時代において、全体を見る視点をどうやって獲得するか。専門的な教育か、実践か、あるいはその両方か。それは、これからのエンジニアにとって避けて通れない課題になっています。


 上流工程への要求が、静かに上がっている

AIが実装を担うようになると、エンジニアが注力すべき場所が変わります。それが「上流工程」——要件定義と設計です。

しかし「実装が減った分、上流に集中する」というのは、言葉ほど簡単ではありません。上流工程には、コードを書く以上に難しい「お客さんが本当に欲しいものは何か」という問いがあるからです。

「お客さんが欲しいものを正確に引き出せるかどうか。実装に時間が取られなくなった分、ここに人間のリソースを集中させる必要がある」(本田)

この「引き出す力」は、技術を知っている人間でないと発揮できません。

「機能の一覧表はお客さんから出てきます。でもそこには機能どうしの関係性は書いていない。この機能を変えたらどこが影響を受けるか、どの情報をデータベースに持たせておく必要があるか——そういうことを全体を見ながら考えられないと、正しい設計ができないんです」(本田)

お客さんの言葉を、実装に落とせる設計に変換する。その橋渡しができるのは、実装の構造を知っている人間だけです。

「今まで、こういうことがわかる人が一人いれば現場は回っていた。これからは、全員が知っている必要があります。厳しい言い方ですが、わからないやつは、エンジニアリングの最前線にいられなくなると思います」(本田)

 

若手育成は、経営の選択になる

AIによる効率化が進むと、企業はより少ない人数で案件を回せるようになります。では、若手はどうなるのでしょうか。

先ほどは厳しい言葉もありましたが、本田はこう続けます。

「中堅のエンジニアはいるけど、若手が全くいない、というのは将来かなり危ないと思っています。若手を雇って、時間がかかってもいいから3~5年は実装をさせないといけない」(本田)

AIで一人分の生産性が上がった分、若手の育成に使う——そういう発想がこれからのエンジニア組織には必要とされています。

「10人でやっていたことが、5人でできるようになる。でも余った分を全部利益にするのではなくて、新たに2人に修行として実装経験を積ませる。利益が出るからこそ、そういう投資もできます」(本田)

これはエンジニアリングの話であると同時に、経営の話でもあります。AIの恩恵をどこに使うか。目先の利益を取るか、次世代の技術力に投資するか——それぞれの企業の判断が問われているのです。

 

まとめ――エンジニアの本質に、近づいている

AIで実装が速くなる時代に、エンジニアに求められるものは減るどころか、増えています。

コードを生成する作業はAIが担う。その分、人間がやるべきことは明確です。お客さんが本当に欲しいものを引き出す力、上がってきたものが正しいかを判断する力、システム全体を見渡して設計する力——これらはいずれも、実装を深く知っている人間にしか発揮できません。

実装経験、問いを持つ力、そして全体を見る視点。

AI時代に求められるエンジニア像は、決して新しいものではありません。むしろ、エンジニアという仕事が、本来あるべき姿に近づいている、ということかもしれません。


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【本記事の監修者】
本田 哉樹
株式会社deeptier マネージャー
Web系企業での開発経験を通じて、日本のシステム開発が抱える構造的な問題を肌で感じ、フリーランスとして独立。 独立後は、炎上・崩壊寸前のプロジェクトへの参画を主戦場とする。

曖昧な責任体制、形骸化したプロセス、意思決定の停滞——こうした状況を「前提条件」として受け入れ、機能しないものを整理し、成果が出る構造に組み直すことをキャリアを通して積み重ねる。顧客折衝・設計・実装・進行管理を統合することで、情報の分断による遅延を排除し、様々な技術・環境においても再現性のあるシステム開発をリード。

「エンジニアの価値は知識量ではなく、未知を即座に戦力化して成果につなげられるか」が持論。各現場で得た知見を共通構造として抽出・再構築することで、Human-AI Hybrid Development Methodの設計思想に至る。

 

正木 拓馬
株式会社deeptier エンジニアリーダー
海外大学にてソフトウェア工学を専攻し、欧州企業にてWebアプリケーション開発に従事。多国籍チームでの開発経験を通じ、グローバル環境における実践的な知見を有する。

人材紹介会社では、社内ユーザー数100万人規模の基幹システムにおいて、フロントエンドからバックエンド、バッチ処理までを横断した設計・開発を担当。拡張性・保守性を重視したアーキテクチャ設計および開発プロセス改善を推進。

現職では、Webアプリケーション開発基盤の設計・標準化を主導するとともに、AIを活用したコード生成パイプラインおよび品質管理プロセスの設計・導入に従事。実務に根ざした開発基盤設計およびプロセス改善を専門とする。

 


 

※この記事について
本インタビューは2026年5月に実施いたしました。肩書や所属はインタビュー実施当時のものであり、インタビュー時点の一般的な開発情報に基づいて執筆されています。技術トレンドの変化により、推奨されるツールや手法は変わる可能性があります。

記事/構成:deeptier マーケティングチーム